糖尿病とがん 2

はじめに

 前回は、糖尿病とがんの関連と学会からの提言を解説しました。今回は糖尿病でがん発症が高まる仕組みと糖尿病治療によるがん発症への影響をお話しします。
 糖尿病は高血糖が持続し、全身にさまざまな合併症(疾患)を来す病気です。一般に2型糖尿病では、血糖値を下げる作用を持つインスリンの作用が低下しているため、それを賄おうとして膵臓からインスリンが過剰に生成されて血液中のインスリン濃度が高くなります。また、全身の炎症反応やそれに伴う酸化ストレスの増加も起こります、これらの要素が複雑に絡み合ってがん発症が高まると想定されています。

 

糖尿病による発がん促進の仕組み

(1)高インスリン血症
 インスリンは細胞成長因子と構造的に類似しているため、血液中のインスリン濃度が高いと細胞成長作用も発現してがん細胞を増殖させることが推測されています。(註:後述しますが、インスリン注射による治療でがんの発症が増加することは否定的です)

(2)高血糖
 血糖は血液中のブドウ糖のことで、細胞が生存・増殖していく際のエネルギー源となります。正常細胞は種々の影響を受けてがん細胞化しますが、高血糖もその一因となると想定されています。さらに血糖値が高いとがん細胞の増殖にも拍車がかかりがんの進展につながります。

(3)酸化ストレス・炎症
 糖尿病では全身性の酸化ストレス・炎症が慢性的に引き起こされ、さまざまな合併症の発症リスクが高まります。がんの発生や進展にもこれらの要因が複雑に関わっていることが報告されています。

 

糖尿病治療と発がん

 上記のように高血糖はがんの一因と考えられているため、以下のいずれの治療も血糖値を低下させることでがんの発症率は低下しそうです。しかし、現実には薬物療法では血糖低下以外の作用の影響のために、各治療薬ががん発症の増減と関連していることが報告されています。

・生活習慣改善・減量
 不適切な食事(赤肉・加工肉の摂取過剰,野菜・果物・食物繊維・魚の摂取不足など)、運動不足、喫煙、過剰飲酒、肥満は糖尿病と発がんの共通の要因ですので、糖尿病患者におけるこれらの改善はがん発症の予防につながる可能性があります。

・メトホルミン(代表薬:メトグルコ・メデット・グリコラン)
 インスリンの効きをよくする作用があり、血液中のインスリン濃度が低下します。血糖低下も加わってがんがん全般・肝臓がん・大腸がん・肺がんの発症を予防する作用を有する可能性が国内外から報告されています。さらに、メトホルミンはがん遺伝子に影響することでがんの発症を直接抑制することも提唱されており、日本からの動物実験で裏付けられています。海外ではがん進展抑制に関する治験が進行しています。

・スルホニル尿素薬(代表薬:グリミクロン・アマリール)
・グリニド薬(代表薬:シュアポスト)
 いずれの薬剤も、膵臓からのインスリン分泌を促進するため血液中のインスリン濃度が高まります。その結果、発がんリスクが高まることが危惧されますが海外からの報告では発がんリスクの増減に関しては一致した見解は得られていません。

・α-グルコシダーゼ阻害薬(代表薬:グルコバイ)
 食後のブドウ糖吸収を遅延させる作用を持ちます。がんとの関連を示すデータは限られており、結論には至っていません。

・DPP-4阻害薬(代表薬:エクア・グラクティブ・ジャヌビア)
・GLP-1受容体作動薬
 低血糖・体重増加を起こしにくい薬剤です。一部のがんリスクが増加する可能性が示唆されていますが確定的ではなく、調査が進行しています。

・チアゾリジン薬(代表薬:アクトス)
 インスリンの効きをよくする作用がありますが、メトホルミンと異なりがん全般の発症リスクへの影響は報告されていません。ただし、膀胱がんのリスクを有意に増加させる国内外の報告が近年になり相次いでいます。現時点では最終結論には至っておらず調査が継続されていますが、現時点ではフランス・ドイツ・インドでは販売が停止されています。

・インスリン注射薬
 インスリンはがん増殖因子としての直接の作用を持つ可能性があるため、注射で体外からインスリンを投与するとがん発症リスクが高まる懸念があり、実際にそのような臨床報告もありました。しかしそれらの報告には研究法に偏り・限界があることが指摘され、最近行われた臨床研究ではがん発症リスクの増加は全く認めませんでした。たとえインスリンそのものによってがん発症リスクが増加するとしても、血糖値が低下することによるがん発症リスクの低下と相殺されるのかもしれません。

 なお、現時点ではいずれの薬剤に関するデータも限定的であるため、糖尿病の治療をしている方は、決して自己判断で服用を中止せず、不安な点は主治医に相談してください。

 

参考文献

糖尿病とがんに関する委員会報告. 春日 雅人,植木浩二郎,田嶼 尚子,野田 光彦,
大橋 健,能登 洋,後藤 温,小川 渉,堺 隆一,津金昌一郎,浜島 信之,中釜 斉,田島 和雄,
宮園 浩平,今井 浩三.
糖尿病 56(6):374~390,2013

Categories: 医科

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