高齢社会のデザイン8 「皆が長寿を喜べる社会の創生に向けて」– 社会課題解決指向日本流オープンイノベーションの手法 –

皆が長寿を喜べる社会の創生を念頭に、日本流オープンイノベーションの手法について、個人的に考えていることをご紹介したい。

高齢社会の課題は、住宅・住環境、交通手段、ヘルスケア、就労、それらを支えるICTなど様々な分野にまたがるが、新しい価値の普及を図るためには、製品やサービスとして産業化することが重要である。しかしながら、こうした新事業を起こすことは容易ではない。開発すべき製品やサービスの形が明確になれば、それを実現するための技術力や資金力は日本の企業の多くが持っていると言えるが、個々の企業特性にあった事業規模、収益性などが見えないと、実際にはそうした事業化の判断をすることは困難だからである。

それはともかく、高齢社会に対応した製品やサービスの中には、従来にない、新しい考え方のものが沢山出現するだろう。例えば、高齢者の心身機能のダイナミックな変化に対応して手動操縦と自動運転を適宜切り替えられ、シェアリング運用を想定した個人向けビークルなどが研究されている。また、紛失や機器の障害による個人データの損失がなく、また安全なリモートアシスト機能でいつでも信頼できる人からのサポートの受けられるICTサービスなどの研究もされている。こうした新しい製品やサービスを実用化していくことは高齢社会にとって望まれることであるが、技術開発だけでなく、法制度の対応、既存事業者との競合、利用形態が変わることに対するユーザの適応など、様々な課題を解決する必要が生ずる。

こうした異質な課題をそれぞれ解決することで、描いていた新しい製品やサービスが実用化されるわけであるが、既存の企業単独では対応できない課題が多く、産学官が協力して解決にあたる必要がある。特に、事業化フェーズにおいては、新しいコンセプトの真髄をよく理解し、様々な選択肢をタイムリーに正しく判断し、事業化を推進していくためには、既存の企業の中で行うよりも、コンセプトの発案者を中心としたベンチャービジネスを起こし、身軽に実行する方が効率よいと考えられる。しかしながら、我が国ではベンチャービジネスの成功確率が低く、現状は極めて低調であると言わざるを得ない。結果として、我が国では新しい製品やサービスの事業化力が低下しているのではと危惧される。これでは、高齢社会の課題先進国ではあっても、課題解決先進国にはなりえないだろう。

こうした状況を打開する上で、プラチナ人材を活用した日本流オープンイノベーションとはいかなるものかを考えた次第である。

この手法は、大学発や官民の研究機関発の社会課題解決を目指すアイデアを事業化しようというベンチャービジネスの育成が目的である。

我が国のベンチャービジネスは米国に比較して成功確率が低く、また成功事例においてもその事業規模が米国のグーグルなどに象徴されるようなインパクトのあるレベルにならないとの指摘がある。ここでは高齢社会の課題解決を目指すべきベンチャーを、グローバルな製品・サービスや共通社会基盤を担い、スケールメリットに基づく拡大を目指すスケールアップ型(SU型)と、個別コミュニティや特定課題に対応した最適形態・最適規模に収斂する、いわばライトサイジング型(Right Sizing、RS型)の2タイプに分けて考える。SU型ベンチャーについてはステージ毎に投資規模が大きくなり、また先端技術開発がキーとなるため、リスクが大であるが、成功時のリターンや社会的インパクトの大きさを期待して、成功のための経営学的方法論の研究や産業革新機構などの制度的な支援が少なからず為されているといえる。一方で、RS型ベンチャーについては、相対的に見ればそうした研究や制度的な支援は低調ではないだろうか。

高齢社会の課題解決の多くは、顔の見える市場に対し、きめ細かいサービスを提供することで顧客から支持を受け、運営にも注意の行き届いた無駄の少ない最適な経営体を構築することが基本となると考えられ、その多くは前述のRS型といえよう。この高齢社会におけるRS型ベンチャーは、国全体でのコミュニティの数、課題の多様性から考えると、数では膨大となるはずで、それぞれは小規模ながら、国全体でのビジネス規模の総和は潜在的には決して小さくないはずである。そうであれば、そのようなRS型ビジネスの無数の成功が高齢社会の課題解決において、重要な役割を果たすという仮説が意味を持つのではないかと考える。

こうした高齢社会における課題解決指向のベンチャービジネスを着実に成功させるためには、それが、SU型であれ、RS型であれ、設計、製造、マーケティング、販売などの基本業務を的確にこなす必要があるが、そのための体制を手早く構築する基盤が弱いと懸念される。人材流動性が低いこと、アウトソーシングで得られる機能にも限界があるからである。従って、その壁を越えられずに資金と時間切れになったベンチャーも少なくないだろう。そうした基本業務については、我が国では既存企業の支援を得られるスキームを構築すべきではと考える。そのためには適切な企業を見出しそこから必要な支援をとりつけることのできる、いわゆるコーディネータが重要となるが、これには経験と人脈豊富なプラチナ人材が適している。50代後半から60代半ばまでのシニア就業者の数は大雑把に言えば被雇用者の1/4と見られるが、事業環境の変化の激しい現代において、従事していた事業がフェーズアウトしたために事実上社内失職し、終身雇用の仕組みのもとになんとか就業している状態の人材は少なからず存在していると考えられる。

従って、もし事業戦略上、当該ベンチャーの成功に興味のある企業であれば、要なスキルをもつ社員を必要な期間、当該ベンチャーに出向させるなどの形で支援することは意味がある。また、ベンチャーが必要な業務を受託して支援する、あるいはベンチャーファンドにおけるビジネスコーディネータ役の人材を出向させるなどの支援が考えられる。出向した社員としては、ベンチャーが失敗した場合でも元の会社に戻れるので、安心して出向先のビジネスに専念できる。よく、「ベンチャーをやるなら失敗したら戻れない、背水の陣でやらせないと真剣に仕事をしない」という考えを耳にする。安心感が時として慢心に繋がることを危惧しての考えであろうが、真剣にやるかどうかはその仕事が自分と社会のそれぞれにもたらす価値をどれだけ理解しているかで決まるのではないだろうか。そして、理解が深いほど仕事に対するコミットメントと質の高さに繋がるのではと考える。

ベンチャー投資には、①smart money、②stupid money, leave alone、③stupid money, controlの3種類があると言われる。③は余計なお世話をして足を引っ張る投資、②は任せっきりの無責任投資、①は適切な支援を施す投資である。このsmart moneyを実現することこそ、上記ビジネスコーディネータの役割であり、米国のVCでsmart moneyを提供できるところには必ずそれを担う人材がいるわけである。グーグルに投資したシリコンバレーのVCが、立上げにあたり創業者のLarry PageとSergey Brin にCEO候補者を次々に連れてきて、最後にEric SchmidtをCEOとして受け入れてもらうまでのプロセスを聞くと、なるほどと感じる次第である。もともと米国に比して一桁少ないベンチャー投資規模の我が国においては、無駄打ちの少ないベンチャー投資を行う必要があり、上記のような企業の協力を頂いて、ぜひともプラチナ人材を最大限活かした投資スキームを確立すべきだと考える。これが実現すれば、そうしたビジネスの成功が高齢社会の課題解決に直接役立つだけでなく、ビジネスコーディネータを始め、新事業に関わる沢山のプラチナ人材の方々の自己実現を支え、新しい産業の育成を通じて、現役世代の就労機会の拡大にも貢献できるはずである。

「コミュニティで創る新しい高齢社会のデザイン」研究領域で進めるテーマを始め、政策支援を受けている高齢社会関連の事業は多い。期待される効果の実証されたものは、事業化に向けて次のステップに進むことが期待される。その支援のためにもこうしたスキームの実現に貢献できたらと考える。

 

コラムニスト
新谷 洋一 領域アドバイザー
東京大学 大槌イノベーション協創事業 プログラムマネージャ

 

 

 

 

 

『ほっとコラム』2012年2月17日掲載分より

関連リンク
コミュニティで創る新しい高齢社会のデザイン
社会技術研究開発センター
独立行政法人 科学技術振興機構
東京大学 大槌イノベーション協創事業

Categories: オピニオン

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