「心の目」

 皆さんは、薬剤師という仕事にどのような印象をお持ちですか?
一昔前ならば「ただ薬を袋に詰めているだけ」のような印象の多かった薬剤師ですが、患者さんへの服薬指導、医師への疑義照会などに加えて、今やその仕事は多岐に渡っています。
私もその薬剤師の一員です。ここでは、病棟で医師、看護師と共に患者さんに関わる人間として、ある一冊の本から感じたことの一つを綴ってみたいと思います。

「自己満足」の服薬指導

薬剤師の病棟活動では、医師や看護師と協力して薬物治療を考えていきます。さらに、患者さんが用法用量を正しく守って服薬出来ているかどうか、副作用、薬物の相互作用により身体への影響は出ていないかなど、一口に病棟活動といってもその内容は様々です。私も担当薬剤師として一つの病棟を任されてからは、患者さんに毎日のように話を聞き、接していく中で「しっかりアセスメント出来ている」と自己満足する日々を送っていましたが、ある時ふと読み返した本の中に、こんな言葉がありました。

「心の目は、人の心を見るのが、いちばんの仕事やな。
あの人は今、顔では笑っているけれど、ほんとうはつらい悲しいことがあって、泣きたいような気持でいるなと見破るのは心の目の仕事じゃな。怒っているようなふりをしているが、ほんとうはうれしくて仕方がないというのを見破るのも心の目や。人間はどんなことをいっても、なにをしても、それはみな、心がそうしているのだから、その心の方を読まんとあかん。
少し人と話すときでも、ちょっとのやりとりでも、おまえの方は、おまえの心を全部、心の目をみんなその人に向けんとならん。少しのことなら、少しの心を向けると良いなどと考えてはならん」
(「天の瞳 幼年編I」 灰谷健次郎著)

この本と出会ったのは中学生の時でしたが、薬剤師となった今、再びこの文章を読み返した時に、胸に何か突き刺さるものがありました。
(今まで何回も患者さんと接してきた。しかしその時に、私の心の目はしっかりと開いていたのだろうか、患者さんにちゃんと心の目を向けていただろうか)と・・・

串刺しにされた心

「患う」という字は「心に串が刺さる」と書きます。
医師や看護師と比べて患者さんに接する時間が少ない薬剤師は、患者さんにとって単なる医療従事者の一人にしか過ぎないかもしれません。しかし、心に刺さったその串は、医師、看護師と共に抜いていかなければならないものです。
悩みを話してこられる患者さんは決して少なくありません。それは薬に関する質問であることがほとんどですが、これからの入院生活がどうなるのか解らない不安、なかなか治療が自分の思うようにいかないという葛藤であったり、家族や親戚との関係であったり、これまで幾度となく様々な話を聞いてきました。「あなただから話せる」と言われた悩みもありました。
しかし、病棟活動を始めたばかりの無我夢中な私は、この人を助けたいという想いが強い故に、患者さんの「身体の」状態から何か情報を得ようと必死になっていたのです。患者さんの傷ついた心自身に向き合うことを、疎かにしてしまっていた自分に深く反省しました。

医師や看護師との連携を密にとり、患者さんに最適な薬物治療を提供することだけではなく、心のケアも重要であるということを改めて考えさせられました。心の目をしっかりと向け、患者さんにしっかり対峙し、その心に添うことの出来る薬剤師になりたいものです。

Categories: くすり

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