高齢社会のデザイン13 「今日もげんき!」―おげんき発信は「生きている証」

「○○○○(フルネーム)さん、今朝のおかげんはいかがですか?」というロボットさんの声がきこえたら、高齢者さんには「1・げんき」「2.少しげんき」「3.わるい」のいずれかの番号を選んで、電話機のダイヤルをまわすかプッシュボタンを押していただきます。みまもりセンター(市町村社会福祉協議会等)では、午後になるとインターネットの画面で発信状況を確認し、未発信者には電話をかけ、登録しているみまもり協力者に訪問を依頼します。これにより、約10円の電話代で、1日1回の確実な安否確認が可能になります。簡単な操作なので継続しやすく、1日に1回なので「見張られている」という感覚もなく、使い続けることによって利用者さんは「みまもられている」という思いを強くし、安心して過ごすようになります。これが、「おげんき発信」の仕組みです。

「おげんき発信」は、岩手県立大学の社会福祉学部とソフトウェア情報学部の教員がプロジェクトを組んで開発し、平成15年12月に高齢化・過疎化が進展する旧川井村で利用を開始しました。平成21年度から岩手県社会福祉協議会で、平成24年度から青森県社会福祉協議会で、事業になりました。平成22年度にJSTのこの領域で採択をうけた「ICTを活用した生活支援型コミュニティづくり」では、「おげんき発信」の「4.はなしたい」「5.たのみたい」ボタンを活用し、みまもりセンターの相談機能・生活支援機能を強化し、コミュニティごとに生活支援資源を組織化していく取り組みを進めています。

本プロジェクトでは、地域の方々と一緒に取り組むことで、この「おげんき発信」の選択肢を増やしてきました。

 

その1つが、緊急通報システムとの一体化です。多くの市町村で緊急通報システムが導入されていますが、めったに「緊急」ボタンを押すことはないので、高齢者さんは押し方を忘れていたり、いざという時に押したら乾電池切れだったという事態も生じています。そこで、本プロジェクトでは、滝沢村の緊急通報システムの空きボタンに「おげんき発信」を登録し、一体型をつくりました。これにより、知的障害や認知症で通常の電話による「おげんき発信」ができない方でも、ワンプッシュの「おげんき発信」ができるようになりました。また、毎朝、「げんき」ボタンを押すことにより、もう1つの「緊急」ボタンの存在も意識化されました。

さらについ最近、「おやすみなさい発信」という選択肢ができました。先月初旬の夕刻、「おげんき発信」を利用しているFさん(男性)から電話がかかってきました。Fさんは近隣や民生委員との交流も少なく、サロンや通所介護の利用を拒んでいる方です。Fさんは、私に、「最近、この空間で一人さびしく死んでも、次の日の午後になっておげんき発信がないということでみつけてくれるまでずっと一人なのかと不安になる」と訴えてこられました。そこで、私から、「今日から『おやすみなさい発信』をしてみませんか」と提案をしました。1日2回、起床時と就寝時に「おげんき発信」をする方法です。それから1カ月を経て、介護支援専門員AさんがFさん宅を訪問したところ、よい効果がでていたとの報告が入りました。Fさんは、「寝ている間に亡くなったとしても、夜の発信記録が残っていれば自分がその時間まで生きていたことが分かってもらえる。2回発信を始めてから気持ちが落ち着いた」とおっしゃっていたそうです。独居の方が誰にも看取られずに亡くなった場合に、早く遺体を発見してほしいという気持ちがあるのはわかっていたつもりですが、「自分がいつまで生きていたかの証を残したい」という気持ちもあることがわかり、孤立度が高い方の不安感解消の手法がまた1つ増えました。

このように、高齢者さんや民生委員など地域の皆さんの話をうかがいながら、新たな問題解決の技法を探索し検証していくことが、アクョンリサーチの醍醐味です。

小川先生が研究代表者を務められているプロジェクト「ICTを活用した生活支援型コミュニティづくり」の紹介はこちらをご覧ください。

 

コラムニスト
研究代表者 小川 晃子
岩手県立大学 社会福祉学部 教授・地域連携本部 副本部長

 

 

 

 

 

 

 

『ほっとコラム』2013年3月8日掲載分より

関連リンク
コミュニティで創る新しい高齢社会のデザイン
社会技術研究開発センター
独立行政法人 科学技術振興機構
公立大学法人 岩手県立大学 社会福祉学部

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